『懲ひ録』訳解本の特徴

某先生より、今冬、私が作業した『懲ひ録』訳解本の特徴は何か、というご質問がありました。オンライン空間を通じて『懲ひ録』翻訳記を掲載(?)しつつも、作業の特徴がまともに説明できていなかったことを反省し、この機会を借りて、今回の作業の趣旨を整理してみました。

                                                        • -

これまでも『懲ひ録』の韓国語訳は数回ありましたが、この度の私の訳解本は「奎章閣古典叢書」シリーズに含まれて、アカネットという出版社から刊行されます。

私の研究分野である文献学・戦争史的な観点を生かし、前近代の朝鮮・日本・明で著された関連文献を利用して、「東アジアの古典としての『懲ひ録』」という性格を前面に出し、一方、文献学的な検討を徹底しました。即ち、

①草本、16巻本、二巻本、日本版2種(『異称日本伝』『朝鮮懲ひ録』)を校勘し、その結果得られた知見を報告しました。

②『懲ひ録』を単なる史料として分割的に扱うのではなく、柳成竜という人間による総体的・有機的な構成を持つ回顧録という視点を取りました。

③日本と中国の関連文献や、柳成竜によるその他の記録、『朝鮮王朝実録』などから、『懲ひ録』のそれぞれの記事の理解に裨益する記述を引用して解説することで、『懲ひ録』の立体的な理解を図りました。

④『懲ひ録』が日本と中国に伝わって、それぞれの文化にどのような影響を及ぼしたかを検討しました。