オーストラリア国立図書館と拙著、学問の伝統

オーストラリア国立図書館に拙著『異国征伐戦記の世界‐韓半島・琉球列島・蝦夷地』(笠間書院、2010)や共著『秀吉の対外戦争』(同、2011)、『壬辰戦争関連日本文献解題』(韓国語、2010)が入庫されたことを確認。本当に光栄なことです。

http://trove.nla.gov.au/result?q=creator%3A%22Kim%2C+Si-do%CC%86k%2C+1975-%22

アメリカ、イギリス、オランダに引き続き、オーストラリアに拙著が入っていることを確認して、一方ではうれしかったんですが、一方では複雑な思いがしました。日本語や韓国語で書かれた文献まで一所懸命集める欧米の知性界に、尊敬の念と共に、怖いという感じがしました。全世界の情報を集めるという感覚は、おそらく、ヨーロッパ文化圏の世界的な拡大が始まって以来続いているパターンでしょう。以前、ポスト・ドクターを申請したオランダのライデン大学。研究テーマの変更を勧められたので進めませんでしたが、当時感じたのは、オランダは旧植民地であるインドネシアに関する研究が充実していて、また、インドネシア学の関係者の影響力が強いということでした。イギリスはアジア・アフリカ学、フランスはアフリカ・太平洋、というふうに。いわゆる帝国主義時代に蓄積した情報が、今でも欧米諸国の学界の強みになっているように感じられます。日本の場合は韓国と中国、台湾などでしょう。アメリカは、伝統的な利害関係から中南米、そして、今は、世界的な大国として世界の全ての価値ある情報を集めています。

このような状況の中、日本学を研究する韓国人にできることは何なのか、果たして、自分は世界のどこまで展望することができるだろうか、自分の前にあった学問の伝統はどのようなものなのか、などなど、複雑な思いがします。もちろん、学問は国籍の問題ではなく、私の前には故・中村幸彦先生や浜田啓介先生をはじめとする、尊敬する日本人の先生・先輩・同僚・後輩、そして、東アジア以外の地域にも尊敬する方々がたくさんいらっしゃいます。あの方々、そして、あの方々の蓄積されてきた学問のうち、現在の私の研究につながる伝統は何なのかを確かめることは、自分の研究者としてのアイデンティティーを確立するのに必要な作業でしょう。今のところ、分かりません。