鳥津亮二先生の拙共著『秀吉の対外戦争』のご書評

『小西行長―「抹殺」されたキリシタン大名の実像』(八木書店)の著者である八代市立博物館の鳥津亮二先生が、拙共著『秀吉の対外戦争』のご書評をFacebookにお書きになったことを知り、ご許可を得てここに転載します。ご好評を賜り、改めて感謝いたします!



日本と韓国を代表する軍記研究者お2人による共同執筆のこの本。秀吉による文禄・慶長の役(壬辰倭乱)が、江戸時代以降どのように両国で語り継がれ、形成・記憶されていったのかを、軍記の実態を整理しつつ、多様な分野との関連・展開を含めて検討しています。日韓の研究者がお互いの研究成果に基づく歴史認識について率直に語り合い共通理解を見出そうとする、その指針とも言うべき本だと思い、感銘を受けました。

熊本にとっては、加藤清正・小西行長との関係で無縁ではないこのテーマ。この本を読んで、後世に創出された「いわゆる二次資料」であっても、それが作成された時点の人々の歴史観や資料的環境が反映されており、現在にまでつながる「歴史イメージ」の形成過程を知るうえで重要な情報だということを改めて認識しました。と同時に、江戸時代の軍記について(特にその成立過程や引用文献など)あまり深く考えていなかった自分に気づき深く反省。一方で、これを機に肥後における歴史イメージ形成の研究(例えば小西行長とか)もやってみたくなりました。

金時徳先生、いい本を出していただきありがとうございます!



僕がこの本で最も興味深かったのが、金先生と井上先生の対談です(しかも本の真ん中に配置しているところが素晴らしい)。その中で金先生が示されている、「伝統的に繰り返される中国と周辺諸民族との覇権競争」という視点、それと「壬辰戦争の話で文献を読むということは、江戸時代の集団意識を読むということでもある」というご理解は、今までの僕の発想に足りなかった部分で、とても勉強になりました。そして、「真実を掴んだと本当に信じてしまうことは危険」であるという言葉も、歴史を学ぶものとして自覚しておかなければならないことと、深く感銘を受けました。この本は単なる軍記研究書というだけでなく、東アジアで歴史を学ぶ人への心構えをも説いているような気がしました。