『〔海外進出文学〕論・序説』序章「異境、謎の源泉 探偵小説が描いた海外進出」

「植民地を舞台とする近現代の文学作品のうち少なからぬものが、探偵小説では決してないにもかかわらず探偵小説的な要素をさまざまなかたちで含んでいる、という事実は、探偵小説と植民地や戦地との関係を、裏面から照射しているように見える。ジョーゼフ・コンラッドの『闇の奥』に代表されるような、未開の奥地での体験をテーマとする一連の作品、アレッホ・カルペンティエールの『失われた足跡』として第二次大戦後のラテン・アメリカ文学のなかにまで及ぶこの系譜は、宗主国の人間や支配者、開発援助者の側の人間から見るとき、植民地や原住民居住地域が謎にみちた異境として、ひとたびは訪れても二度と入っていくことのできぬ秘境として現われることを、ありありと描き出している。」池田浩士『〔海外進出文学〕論・序説』(イザラ書房、一九九七)十二頁