0003『絵本太閤記』第1編巻1、4ウ‐9オ「発端」

【4ウ-5オ】竹生嶋之図(ちくぶしまのづ)
(早稲田大学所蔵本 http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he13/he13_01833/he13_01833_0001/he13_01833_0001_p0017.jpg

【5ウ】土成山風雨興焉(、)積水成川蛟竜生焉(つちつもつてやまをなせばふうおこり、みづつもつてかはをなせばかうりやうしやうず)(。)徽少(すこしき)も積(つもり)て止(やま)ざれば必(かならず)強大(おほひなる)に至(いた)る(。)本朝(ほんてう)後奈良院(ごならのゐん)の朝廷(てうてい)天文(てんぶん)の時(とき)に当(あた)つて天(てん)一人(いちにん)の英雄(ゑいゆう)を降(くだ)し(、)此(この)人(ひと)歴世(れきせい)の大乱(たいらん)を鎮(しづ)め(、)万民(ばんみん)の塗炭(とたん)を救(すく)ひ(、)四海(しかい)一統(いつとう)掌(たなごゝろ)に握(にぎ)り(、)夫(それ)が余(あま)り遠(とを)く朝鮮(てうせん)を征(せい)し(、)彼(かの)邦人(ほうじん)をして雷<「雨」の下に「庭」>(らいてい)のごとく恐(おそ)れしめ(、)鬼神(おにかみ)のごとく敬(うやまは)しむ(。)是(これ)尾州(びしう)愛智郡(あひちこほり)中村(なかむら)の土民(どみん)筑阿弥(ちくあみ)が子(こ)にして(、)童名(わらわな)を日吉丸(ひよしまる)と呼(よ)び(、)生長(ひとゝなり)て木下藤吉郎(きのしたとうきちらう)と名乗(なのり)(、)後(のち)の称(しよう)は羽柴筑前守(はしばちくぜんのかみ)(、)天下一統(てんかいつとう)の後(のち)(、)終(つい)に関白職(くはんばくしよく)を経(へ)て豊臣太閤贈一位豊国大明神(とよとみたいかうぞうしやういちゐとよくにだいめうじん)と号(がう)し奉り(、)犬擲童子(いぬうつわらは)(・)市(いち)に立(たつ)老婆(うば)迄(まで)も其(その)武徳成功(ふとくせいこう)を尊(たつと)む事(こと)(、)豈(あに)小(せう)を積(つん)で大(だい)をな

【6オ】すと謂(いは)ざるべけんや(。)其(その)高祖(せんぞ)を尋(たづぬ)るに(、)足利(あしかゞ)の季(すべ:ママ)応仁(おうにん)の比(ころ)山名(やまな)(・)細川(ほそかは)乱(らん)を起(をこ)せしより以来(このかた)(、)天文(てんぶん)(・)弘治(かうぢ)(・)永禄(ゑいろく)(・)元亀(げんき)(・)天正(てんしゃう)の間(あいだ)に至るまで凡(およそ)百有余年(ひやくゆうよねん)天下(てんか)麻(あさ)のごとくみだれ(、)英雄(ゑいゆう)豪傑(がうけつ)国々(くに〴〵)に蜂起(ほうき)し威(ゐ)を張(は)り力(ちから)をあらそひ君(きみ)を弑(しい)し父(ちゝ)を殺(ころ)し(、)あるひは起(をこ)り又は亡(ほろ)び(、)上(かみ)天子(てんし)の尊(たつと)きより下(しも)庶人(しよにん)の賎(いやし)きまで安(やす)き心(こゝろ)更(さら)になく(、)深(ふか)き淵(ふち)に臨(のぞ)み薄(うす)き氷(こほり)を踏(ふむ)がごとし(。)恰(あたか)も七雄(しちゆう)三国(さんごく)に彷彿(さもにたり)(。)爰(こゝ)に叡山(ゑいざん)西塔(さいたう)の僧(そう)に昌盛法師(しやうせいほうし)と云者(もの)あり(。)つら〳〵天下の形勢(ありさま)を見るに(、)王法(わうほう)仏法(ぶつほう)ともに廃(すた)れ(、)乱世(らんせい)に生(うま)れ乱世(らんせいに)死(し)し(、)泰平(たいへい)の日(ひ)ある事(こと)を知(し)るものなし(。)かくては天下(てんか)の人民(にんみん)こと〳〵く修羅道(しゆらだう)に堕落(だらく)し(、)何日(いつ)か成仏(じやうぶつ)の期(とき)に遇(あは)んや(。)所詮(しよせん)今(いま)の世(よ)の衆生(しゆじやう)済度(さいど)は天下泰平(てんかたいへい)ならしめんには

【6ウ-7オ】発端(ほつたん)
(早稲田大学所蔵本 http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he13/he13_01833/he13_01833_0001/he13_01833_0001_p0019.jpg

【7ウ-8オ】日吉丸誕生(ひよしまるたんじやう)
(早稲田大学所蔵本 http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he13/he13_01833/he13_01833_0001/he13_01833_0001_p0020.jpg

【8ウ】しかじと一大願(いちだいぐわん)を発(をこ)し(、)竹生嶋(ちくぶしま)に参篭(さんらう)し(、)乱(らん)を退(しりぞ)け治(ぢ)をなさん事(こと)を祈(いの)る事一百日(いつひやくにち)既(すで)に満(みて)んとする其(その)暁(あかつき)(、)異霊(ゐれい)の神女(しんぢよ)出現(しゆつげん)まし〳〵(、)昌盛法師(しやうせいぼうし)に告(つげ)給ふは(、)夫(それ)治乱興廃(ぢらんこうはい)は天地(てんち)の流行(りうかう)(。)治(ぢ)究(きはま)る時(とき)は乱(らん)を生(しやう)し(、)乱(らん)極(きはま)つて治(ぢ)に復(ふく)する事(こと)寒暑昼夜(かんしよちうや)の往来(わうらい)のごとし(。)今(いま)の時(とき)や(、)乱(らん)いまだ極(きはま)らず(、)治(ぢ)をなすに道(みち)なし(。)然(しか)りといへども(、)汝(なんぢ)丹誠(たんせい)をこらし祈念(きねん)する事(こと)神(しん)に通(つう)じ(、)汝(なんぢ)が家(いへ)に一人(いちにん)の奇子(きし)を生(うま)しめ(、)天下(てんか)是(これ)が為(ため)に太平(たいへい)を調(うた)ふべし(。)はや〳〵還俗(げんぞく)して子孫(しそん)の功(こう)をまつべしと霊告(れいかう)を蒙(かうむ)りて則(すなはち)夢(ゆめ)は覚(さめ)たりけり(。)昌盛法師(しやうせいほうし)奇異(きゐ)の思ひをなし(、)大願(だいぐはん)既(すで)に成就(じやうじゆ)せりとよろこび(、)山門(さんもん)を辞(じ)し(、)故郷(こきやう)江州(ごうしう:架蔵本は「ご」の濁音がほぼ見えず、最後の「う」は完全に見えない。早稲田本より後刷であることが分かる)浅井郡(あさゐこほり)に帰(かへ)り(、)妻(さい)を具(ぐ)して耕(たがやし)をいとなみ(、)子孫(しそん)あらん事(こと)のみを希(ねが)ひ年月(としつき)を過(すぎ)し

【9オ】けり(。)後(のち)(、)事(こと)ありて尾州(びしう)愛智郡(あひちごほり)中村(なかむら)に住(ぢう)し(、)地名(ちめい)を以(もつ)て氏(うぢ)と成し(、)中村弥助昌盛(なかむらやすけまさもり)と呼(よべ)り(。)是(これ)則(すなはち)豊臣秀吉公(とよとみひでよしこう)の御先祖(ごせんぞ)なり(。)

*最初、一週間に一回のペースでアップロードしようと思っていましたが、本文の入力が遅くなってしまいました。2週間の福岡滞在の最終日を『絵本太閤記』と共に過ごすことができました。