佐藤温さん、おめでとう!

私はいただけなかった賞。もう40歳なので無理ですね。うらやましいです。

佐藤さん、おめでとうございます!

http://www.kinseibungakukai.com/doc/winner.html

日本近世文学会賞規約により、平成二十七年度日本近世文学会賞は、『近世文藝』百二、百三号に掲載された論文中の選考対象から選考委員会において審議の結果、受賞者は、日本大学経済学部専任講師、佐藤温氏に決定した。

〔受賞論文〕

「藤森弘庵『春雨楼詩鈔』と幕末の出版検閲」

■受賞理由

本論文は、幕末の儒家で攘夷論者として知られる藤森弘庵の漢詩集『春雨楼詩鈔』の諸本間にみられる本文の削除や修訂箇所の精査を通して、幕末の出版検閲のあり方を明らかにするとともに、明治初期の勤皇志士顕彰運動に乗じた弘庵門下による弘庵遺作出版の気運にも言及したものである。筆者はまず、『春雨楼詩鈔』の諸本を本文の削除の有無によって三系統に分類するが、先行研究である望月茂『藤森天山』が三系統を完本から順次削除が行われたものと見なしたのを批判し、三系統は基本的に同版であり安政年間に削除された箇所が実は明治初期に埋木修訂された部分もあることを発見した。背景に、太政官作成の記録「春雨楼詩鈔官許御達」や依田学海の日記『学海日録』等の記事を傍証に門人による弘庵遺作出版の気運を見据えているだけに、説得力がある。その上で、本題である幕末(安政年間)の削除状況を明らかにしていくが、それが林家の指示でなされたことを証明した後、削除箇所の詩句を詳細に分析し、削除対象は幕府の海外対策への批判に当ると判断された箇所であり、しかも多分に恣意性に流れた検閲であると指摘する。勤皇志士への影響を恐れて過敏になっている林家の検閲状況を言い得た筆致は絶妙で、幕末出版史の一面が、背景をなす幕末・維新社会の動向とともに鮮やかに浮かび上がった。明確な論旨が精密な書誌調査や周辺資料の検討に支えられている点、論文としての完成度がきわめて高い。修訂されていない箇所の意味づけの必要性を述べるなど、課題意識も明確で今後の発展が大いに期待できる。よって選考委員会は、本論文を日本近世文学会賞該当論文として選出するものである。